AIが気になります。

企業はAIの利用を進めようとしていますが、高齢の生活者は全く関心を持っていません。近い将来、どんな状況が生じるのかについて、AIに小説を書かせてみました。

変わりゆく世界で

田所正雄(68歳)は、郊外の静かな住宅地で一人暮らしをしている。妻の千代子は三年前に他界し、二人の子どもたちは東京と大阪でそれぞれ家庭を持って暮らしている。正雄の日課は単純だ。朝は六時に起き、ラジオ体操をして、庭の手入れをし、昼食後には近所を散歩する。夕方はテレビのニュースを見て、夜は時々古い友人と電話で話すことが楽しみだった。

第一章:静かな朝

2030年の春のある朝、正雄はいつものように目を覚ました。窓から差し込む柔らかな陽の光を浴びながら、ゆっくりと身体を伸ばす。しかし、昨日からの腰の痛みがまだ残っていた。

「またか…」

彼はベッドから起き上がり、窓を開けた。桜の木々が満開で、風に乗って花びらが舞っている。正雄は深呼吸をして、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

朝食は簡素だった。味噌汁と焼き魚、白米。テレビをつけると、ニュースキャスターが最新のAIテクノロジーについて話している。

「今日から、新しい行政サービス『AIシティズン』の運用が始まります。これにより、各種申請手続きがAIチャットで簡単に完結できるようになります。また、健康保険証と連携した『AIヘルスモニター』は、日常的な健康データを分析し、潜在的な疾病リスクを早期発見する機能も追加されました。専用アプリのダウンロードは…」

正雄はリモコンを手に取り、チャンネルを変えた。

「どうせ私には関係ない話だ…」

彼は苦々しい表情でため息をついた。息子からも「父さん、スマートスピーカーと健康モニタリングウォッチを置いておくよ。これがあれば、もし具合が悪くなったときも自動で僕たちに通知が行くし、医療データも蓄積されるから」と言われたが、どちらも箱に入ったままリビングの棚の上に置かれていた。

第二章:拒絶される日常

午後、正雄はいつものように散歩に出かけた。行きつけの薬局に立ち寄ると、店の入口に「処方箋受付はアプリから事前登録でスムーズに」という看板があった。

「すみません、血圧の薬を出してもらいたいのですが」正雄が窓口で言うと、若い薬剤師が困ったような顔をした。

「田所さんですね。申し訳ありませんが、今日からシステムが変わって、窓口での処方箋受付は予約制になりました。アプリで事前登録か、あちらの端末で受付をお願いします」

正雄は指示された機械の前に立ったが、画面の操作方法が分からず、10分ほど悪戦苦闘した。結局、後ろに並んでいた他の客が苛立ちの表情を見せ始めたため、薬剤師が特別に対応してくれた。

「次回からはぜひアプリの利用をご検討ください。AIが服薬管理もしてくれて、飲み忘れがなくなりますよ」

帰り道、正雄は銀行に立ち寄った。窓口は一つだけになり、長い列ができていた。代わりにタッチパネル式のATMが増設されていた。

「申し訳ありません、窓口の受付は14時までとなっております」係員が声をかけてきた。「こちらの新型ATMをご利用いただけますか?AIアシスタント機能が付いていて、声で操作することもできるんです」

「私は機械が苦手なんです。窓口でお願いできませんか?」正雄は少し声を震わせて言った。

「申し訳ありませんが、窓口業務は縮小されておりまして…」係員は困った表情を浮かべた。「明日改めていらっしゃるか、今日はこちらのATMで私がサポートさせていただきますが…」

結局、正雄はその日の用事を済ませることができず、家に帰ることにした。

第三章:見落とされた警告

夏の終わり、正雄は朝起きたときから胸の辺りに違和感があった。「年のせいだろう」と思い、いつものように過ごした。

その夜、ニュースを見ていると、健康特集で「AIによる早期疾病検知システム」について報じていた。

「このウェアラブルデバイスは、着用者の心拍数や血圧、体温などを常時モニタリングし、異常を検知するとすぐに医療機関に通報。多くの場合、症状が重篤化する前に治療を開始できるため、特に高齢者の救命率が大幅に向上しています」

正雄はそれを聞きながら、自分の胸の違和感を思い出した。しかし、「そんな機械に頼るなんて」と思い、気にしないようにした。

三日後、正雄は自宅で倒れた。発見したのは、様子を見に来た隣家の山田さんだった。病院に運ばれると、医師から厳しい言葉が告げられた。

「心筋梗塞の初期症状が出ていたようですね。もう少し早く来院していれば…」医師は残念そうに言った。「最近はAIヘルスモニターで、こういった症状を事前に検知できるケースが増えているんですよ」

幸い一命は取り留めたが、正雄は長期入院を余儀なくされた。

第四章:デジタル難民

退院した正雄を待っていたのは、さらに住みにくくなった世界だった。

スーパーに行くと、レジは無人化され、スマホアプリでの決済が基本になっていた。有人レジは一つだけ残されていたが、長蛇の列ができていた。

「すみません、現金でお支払いしたいのですが」正雄が店員に声をかけると、

「申し訳ありません、有人レジは午前中だけの対応となっています。セルフレジをご利用いただくか、アプリをダウンロードしていただけると…」

買い物を諦めて帰ろうとした正雄の前に、同じような年齢の男性が声をかけてきた。

「大変ですよね。私も最初は苦労しました。よろしければ、アプリの設定をお手伝いしますよ」

その男性の助けを借りて、どうにか買い物を済ませることができた。

帰宅すると、郵便受けに市役所からの通知が入っていた。

「重要:健康保険証のデジタル完全移行について」

封書には、従来の保険証が廃止され、完全にマイナンバーカードとスマートフォンアプリに移行すること、それに伴う手続きを行わなければ保険適用が受けられなくなる可能性があることが書かれていた。

「どうすればいいんだ…」正雄は頭を抱えた。

第五章:取り残される恐怖

秋になり、正雄の体調は徐々に回復したものの、社会との断絶感は増すばかりだった。

かかりつけ医の診察予約をしようと病院に電話すると、「24時間自動音声応答システムに切り替わりました」というアナウンスが流れた。AIが声を認識して予約を取るシステムだったが、正雄には操作方法が理解できず、何度やっても「申し訳ありません、もう一度お願いします」と言われるだけだった。

結局、病院に直接行ったが、窓口では「予約なしでは診察できません」と言われた。親切な受付の人が特別に対応してくれたが、「次回からはアプリか電話予約をお願いします」と念を押された。

帰宅後、正雄は玄関先で座り込んでしまった。肩で息をしながら、「私はこの世界で生きていけないのかもしれない」と呟いた。

その晩、長男の雄一から電話がかかってきた。

「父さん、大丈夫?病院から連絡があったんだ。まだ通院が必要だって」

「ああ…」正雄はぼんやりと答えた。

「父さん、聞いてくれ。僕が送った健康モニタリングウォッチを使ってほしい。今回のこともあるし、もし何かあったときすぐに気づけるんだ。AI機能で不整脈や血圧の異常も検知できる。それに…」

「雄一」正雄は疲れた声で言った。「私にはもう何もわからない。世の中が早すぎるんだ」

電話の向こうで、雄一が深いため息をついた。

「…来週、休みを取って帰るよ。一緒にやり方を覚えよう。父さんを一人にしたくないんだ」

その言葉に、正雄の目から涙がこぼれた。

第六章:生きる選択

冬の訪れと共に、正雄の家に雄一が帰ってきた。

「まずはこれだけでいいんだ」雄一は健康モニタリングウォッチを父の手首に装着しながら説明した。「充電は週に一回。あとは何もしなくていい。もし心拍や血圧に異常があれば、自動的に僕と病院に通知がいくし、位置情報も分かるから安心だよ」

正雄は黙って頷いた。

次に、雄一はスマートフォンの基本的な使い方を教えた。電話、メッセージ、そして必要最低限のアプリの使い方だけだ。

「これで病院の予約もできるし、買い物も少し楽になるよ。そして何より、いつでも僕たちとビデオ通話ができる」

正雄は不器用な指でスマホを操作しながら、おずおずと質問した。「間違えたらどうなる?」

「大丈夫、何度でもやり直せるよ。ゆっくり覚えていけばいい」

一週間の滞在中、雄一は父親と共に街に出て、実際にアプリを使った買い物や予約の仕方を練習した。最初は戸惑っていた正雄も、少しずつ慣れていった。

雄一が帰る前の晩、二人はリビングでお酒を飲みながら話した。

「父さん、すごく上達したよ」雄一は笑顔で言った。

「いや…まだまだだ」正雄は照れくさそうに言った。「でも、少しずつ分かってきた気がする」

「そういえば」雄一は話題を変えた。「あのウォッチのおかげで何か変わった?」

正雄は少し考えてから答えた。「実はな…先週、このウォッチが震えて、『血圧が高くなっています。休息をとってください』って表示が出たんだ。その通りにしたら、すぐに治まったよ」

「それは良かった」雄一はほっとした様子で言った。「実はあのウォッチのおかげで、父さんと同じような症状で早期治療できた人が多いらしいんだ。もし父さんがあの時…」言葉を詰まらせた。

正雄は息子の肩を叩いた。「ありがとう、雄一。お前のおかげで、私はもう少し長生きできそうだ」

第七章:新たな始まり

2031年の春、正雄は市民センターの前に立っていた。「シニアのためのデジタル活用講座 – 初心者大歓迎」という看板が出ている。

深呼吸をして、彼は中に入った。教室には、同じような年代の人々が十数人集まっていた。

「皆さん、おはようございます」若い女性の講師が明るく言った。「今日から始まる講座へようこそ。まずは自己紹介からしましょうか」

順番が回ってきて、正雄はゆっくりと立ち上がった。手首にはウェアラブルデバイスが光っている。

「田所正雄です。68歳です。昨年、心筋梗塞で倒れまして…」彼は少し間を置いた。「もし早く気づいていれば防げたかもしれない。息子が勧めてくれた健康モニターのおかげで、最近は体調管理もできるようになりました。でも、まだまだ分からないことが多くて…このまま社会から取り残されるのは怖いです。何か一つでも、自分のペースで学んでいきたいと思います」

講師は優しく微笑んだ。「素晴らしいです、田所さん。新しいことを始めるのに遅すぎることはありません」

講座が終わった後、同じクラスの高齢の女性が正雄に話しかけてきた。

「私も最初は怖かったのよ。でも、AIヘルスモニターで不整脈を早期発見できて、大事に至らずに済んだの。それに、孫とビデオ通話できるようになったときの喜びといったら…」彼女は目を輝かせて話した。「ところで、来週もいらっしゃる?近くの喫茶店でお茶でもいかがかしら?」

正雄は照れくさそうに笑顔で頷いた。「ぜひ」

帰り道、桜が満開だった。正雄はスマートフォンを取り出し、その美しい光景を撮影した。そして数回タップすると、子どもたちと孫たちに写真が送られた。

すぐに孫の健太から返信が来た。「じいちゃん、きれいな桜だね!今度会いに行くよ!」

正雄は空を見上げた。桜の花びらが風に舞う中、彼は深呼吸をした。「まだまだ、生きていける」

健康モニタリングウォッチが軽く振動し、「良好な心拍数です」という表示が出た。正雄はそれを見て、静かに微笑んだ。

変わりゆく世界に一歩踏み出した自分の選択を、今は誇りに思えた。それは単なる技術の受け入れではなく、生きることを選んだ証だった。

(終)

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